一般に新事業開発は、ニーズ発でスタートします。今、世の中でこんな問題が起こっている、だからそれを解決する技術やシステムを開発するという流れです。しかし一方で、新しい技術の特性から用途開発を考えるというアプローチもあります。そこで、パネルディスカッション2では、それぞれ異なる分野で最先端の研究をされている株式会社ノベルジェン代表取締役社長 小倉淳氏と大阪大学大学院工学研究科テニュアトラック助教 岡弘樹氏のお二人に登壇いただき、高知県内で最先端技術を活用して新事業開発を行う方法を探りました。また、県内企業の事業戦略策定支援をしている高知県産業振興センター事業戦略エグゼクティブアドバイザーの山瀬純一氏にも参加いただきました。
[登壇者]
公益財団法人高知県産業振興センター 戦略支援エグゼクティブ・アドバイザー 山瀬 純一氏
株式会社ノベルジェン 代表取締役社長 小倉 淳氏
大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻テニュアトラック助教授 岡 弘樹氏
[モデレーター]
株式会社リバネス 関西開発事業本部部長 石尾 淳一郎
最初に山瀬氏に、新技術から用途開発を考えるアプローチのポイントについて話していただきました。山瀬氏は、日立製作所で42年にわたりテレビ事業をはじめ多くの事業開発に従事。その後、高知県産業振興センターに移り、県内の事業者を対象に事業戦略の策定や実行支援、製品開発支援などに携わってきました。通常の事業開発の流れだけでなくご自身のこれまでのご経験でも、新規事業開発は顧客ニーズに応えられるシーズを探すというアプローチがセオリーでした。ニーズにいかに応え、尖った技術で他社にない製品を作り出せるかというところを重要なポイントとしてこられたそうです。
一方で、「最近では技術の進捗がめまぐるしいことから、技術特性を理解し、新用途への展開可能性を検討するというアプローチが必要な局面にあると認識しています」と山瀬氏は言います。新しい技術が誕生したら、どんな特性があるのか、どんな物性があるのかを調べてみる。それで、その物性はどういう価値を生み出せるか、世の中にどういうインパクトを残せるだろうかと考えてみる。それを繰り返すことで事業化の道筋が見えてくるのです。」と山瀬氏は言います。
こうちネクストコラボプロジェクトを通じて実現しようとしているグリーン化のプロジェクトは、もしかしたら既存の市場がないかもしれません。その中で新しい知識と出会ってどんな価値を生み出せるかというようなことを発想していくためには色々な技術や物質の特性を深く理解し、そこから新事業の着想を得ていくことが大事なのです。
山瀬氏からのメッセージを受け、今回は「微細藻類による環境浄化」と「水素」という2つのシーズから用途開発を検討してみようという投げかけがモデレーターからありました。
まずは「微細藻類による環境浄化」について、大学発ベンチャーでもある株式会社ノベルジェン代表取締役社長の小倉淳氏です。小倉氏は大学で遺伝子工学やバイオインフォマティクス、微細藻類などの研究を行っていましたが、こうした基礎研究を社会に役立てたいという思いから2019年にノベルジェンを設立。以降、微細藻類を用いた環境浄化、具体的には「脱炭素」「水資源保全」「マイクロプラスチック除去」という3つの取り組みを推進しています。また、そうした環境浄化技術を使い、産業廃棄物などをバイオ炭や肥料、飼料などに資源転換する試みも始めています。
小倉氏は、微細藻類の特性を説明しながら、脱炭素、水資源保全、マイクロプラスチック除去の原理や、実際にどのようなところで活用できるのか、どのような効果が期待できるのか、どういった課題があるのかなどをわかりやすく解説しました。
近年、カーボンニュートラルだけでなく、ウォーターニュートラルについても取り上げられ始めています。水資源は持続可能ではありません。現在、世界で見ると人口の約7割が安全な水に到達できない状況にあります。今後、商用や工業用の水資源を再利用できるようにする技術のニーズがとても高まっているのです。また、食品の残留性汚染物質の問題もあります。特に、潮目はプランクトンが集まるため、魚が成長する場所にもなっています。一方で、ここは陸から流れてくるマイクロプラスチックが集まる場所でもあり、稚魚が誤飲して死んでいるそうです。「現在はマイクロプラスチックを減らす技術がありませんが、これをなんとかしたい。」と小倉氏は考え、これらの課題を微細藻類を用いて解決するプロセスを開発しようとしています。微細藻類には二酸化炭素も固定でき、バイオ炭や飼料にもなることから、二酸化炭素固定後も様々な用途が考えられます。
ここで、山瀬氏から「微細藻類はPP(ポリプロピレン)を接着できるのですか」と質問が。PPの性質上、接着が非常に難しく、県内企業の中にもここがハードルとなっているところがあるそうです。これに対して小倉氏からは「扱っている微細藻類は粘着成分を出しており、接着剤ほどの強度はないものの、水中の夾雑物を回収することができます。さらに、大量培養する中で、微細藻類を新しいプラスチックの原料として使用することは可能ではないか。ぜひ試してみたい」との前向きな回答が。また、「私たちだけで実現するのは困難です。高知県の事業者の方々にご協力いただければうれしい」と締めくくりました。
次いで、大阪大学大学院工学研究科テニュアトラック助教の岡弘樹氏に話していただきました。岡氏は、「有機廃棄物を水素に変える」という画期的な研究を行っており、特に新しい機能を持つプラスチックを研究する中で水素に着目したとのこと。「水素はクリーンエネルギー源として注目されていますが、非常に用途が広いのです。例えば、CO2をメタンに変えるときに必要ですし、農業用のアンモニア系肥料の生産などでも必要です。しかし、水素は簡単に作れるものではなく、白金など貴金属を触媒に用いないといけませんでした」と説明。
そこで、岡氏は金属を使わずに水素を製造する研究を開始。そして、工場などから排出される有機廃棄物を使って水素を製造することに成功しました。また、水素の保管、運搬には高圧ボンベを使うしかなく、爆発の危険性などがあるため、安全かつ効率よく水素を運べるプラスチック製容器の研究も行うなど、水素製造から貯蔵に関わるところまで水素サプライチェーンの構築に取り組まれています。岡氏の説明を受けて、山瀬氏から水素を貯めるプラスチック素材の特性などについて岡氏に質問。水素の貯蔵には圧力タンク等が必要ですが、広いスペースが必要であったり爆発の危険性のない保管方法が必要であるなど、管理が非常に難しくなっています。このハードルがクリアできれば水素の普及は早くなりそうです。岡氏の保存方法はそのソリューションの1つとなりそうです。来場者からも岡氏の保存方法に高い関心が寄せられていました。
この後も貯蔵方法に関連して、温度依存性等に関する質問や熱を電気に変えるアイデアなど活発な意見交換がなされ、盛り上がったところでセッションの終了時間となりました。最後にモデレータの石尾が、小倉氏と岡氏に締めのひと言を依頼したところ、小倉氏からは「私の祖母は高知出身なので、高知には親近感を抱いていました。将来的には移住も考えて、高知発の新しい産業をつくりたいです」岡氏からは「今後もグリーン化の研究を続けていくので、これを機に地元企業の皆さまと一緒に活動できたらうれしいです」とメッセージをもらいました。
文責:株式会社リバネス
キーノートセッション、パネルセッション、ショートピッチはアーカイブ動画を配信しています。配信希望も3月末まで受け付けておりますので、ぜひご覧ください。
こうちネクストコラボプロジェクトでは、高知県内事業者のグリーン化に関する新事業創出を支援しています。
9月以降は、高知県内の企業とスタートアップ企業や研究者との連携を具体化していくために視察や仮説の検証等に取り組んでいきます。また、スタートアップ企業や研究者との連携のご希望やご相談はこれ以降も随時受け付けています。
既に新事業に取り組んでいる方、これから取り組もうと考えている方など、新事業に興味をお持ちの方はいつでもご参加可能ですので、以下の「お問い合わせ」先までご連絡をお願いいたします。
<お問い合わせ>
主催:高知県 産業振興推進部 産学官民連携課(担当 山本、澁谷、川田)
(電話)088-823-9781
(メール)121701@ken.pref.kochi.lg.jp
運営:株式会社リバネス(担当 岸本)
(電話)03-5227-4198
(メール):RD@Lnest.jp