2022年8月4日、超異分野学会高知フォーラム「土佐の海と大地の資源循環からはじまるグリーン化への挑戦~企業×スタートアップ×大学で取り組む新事業創出と研究開発~」が開催されました。開会式の直後に行われた第1部は、株式会社ガルデリア代表取締役CEOの谷本肇氏によるキーノートスピーチで、極限環境で生きる微生物を利用した金属リサイクルについてお話しいだきました。また、途中から株式会社リバネス代表取締役社長CKOの井上浄が参加。高知県内で微生物を用いた資源循環を実現する可能性を探りました。
[登壇者]
株式会社ガルデリア 代表取締役CEO 谷本 肇氏
谷本氏による講演は「極限環境微生物が拓く製造業グリーン化の可能性~循環経済を実現するガルディエリア~」というテーマで行われました。谷本氏は2015年にガルデリアを共同創業、硫酸性の温泉に生息する「ガルディエリア」という藻類を用いて、金やプラチナ、パラジウムといった貴金属を回収する事業を展開しています。「極限環境微生物」の1つであるガルディエリアは「金属を吸着する」という特殊な性質を持っているのです。
そもそも、極限環境微生物とは、普通の生物では死んでしまう環境でも生育できる微生物です。ガルディエリアはpH 1の酸性の環境や二酸化炭素濃度が100%の環境でも生存できます。また、植物と動物の両方の性質を持っていて、光のある環境では光合成ができますが、暗いところでも栄養分さえあれば生存できます。
谷本氏がこの事業を始めた背景には、有価金属のリサイクル率を高め、資源循環だけでなく経済循環をも実現したいという考えがあります。例えば、レアメタルの1つであるパラジウムは、日本では43%をロシアからの輸入に頼っているため、社会情勢によっては今後、供給が危ぶまれる恐れがあります。また、金は世界中に天然鉱山がありますが、一部の無認可の鉱山では環境汚染や労働者の健康被害が露呈し、大きな問題になっています。こういった社会課題も踏まえると廃棄物などから回収して再利用することが重要になります。しかし、日本国内における金やパラジウムのリサイクル率はコスト面などの問題から4割程度にとどまっており、再利用しきれていないのが実情です。そこで谷本氏は、ガルディエリアの性質を利用し、金属廃液などから金やパラジウムを取り出す事業に着手しました。
続いて、谷本氏はモニターに写し出された図を用いて、金属廃液から貴金属を取り出す技術を解説しました。といっても複雑なものではなく、金属廃液に培養したカルディエリアを混入すれば、排出器で簡単に回収できるそうです。複雑な工業プロセスを必要としないためコストが抑えられるうえ、微生物を用いるので環境への負荷が少ないというメリットがあるといいます。(詳細は動画をご覧ください)
次いで、谷本氏は現在どのように事業を展開しているのかを話されました。1つは金属廃材などを回収して有価金属を取り出す事業を展開しているリサイクル業者や、金属廃液からレアメタルなどを取り出す事業を行っている廃液業者へのアプローチです。それらの業者は、吸着材などを使って有価金属を取り出していますが、その方法にはいくつか欠点があります。「普通は鉛やすずなどさまざまな金属が含まれているのですが、それらの比率が高いと、金やパラジウムだけ取り出すことができないのです。目の前に宝の山があるとわかっていても、手を出せない」と谷本氏はいいます。その点、ガルディエリアを用いると「宝」だけを取り出すことが可能になります。
もう1つは、製品や部品のリサイクルに取り組んでいるメーカーへのアプローチです。今は多くのメーカーが、古くなったり使えなくなったりした自社製品をきちんと回収し、再利用するという方針を掲げています。そういったメーカを対象に、カルディエリアを用いた金属リサイクルの導入を提案しています。また、自治体が運営するゴミ焼却施設での活用も視野に入れていて、すでにある地方自治体で実証実験を開始しているそうです。
谷本氏は「少し大きなことを言いますが、われわれ人間は、地球に生きている何万種類の生物の中のたった一つの生物でしかありません。ですから、人間のことだけを考えず、他の生物のことも考えて、ガルディエリアを用いて地球と全生物に最適なエコシステムを確立したいと考えています。これが当社のミッションです」と語り、基調講演を終えました。
基調講演終了後、株式会社リバネス代表取締役社長CKOの井上浄も登壇し、井上が進行役を務めながらカルディエリアを用いた貴金属のリサイクルプロジェクトの高知県内での展開可能性や、地元企業にはどのような役割が求められるかなどについてディスカッションしました。
井上は、これまでに採集できた貴金属の量などを谷本氏に聞きながら、気になっていたことを会場に向けて質問しました。「高知県内に硫酸性の温泉はあるのですか」。ガルディエリアは硫酸性の温泉に生息するため、県内に硫酸性の温泉があれば、カルディエリアを培養できる可能性が高まるからです。しかし、そもそも高知県は温泉自体が多くないとのこと反応があり、硫酸温泉を見つけるのは難しそうでした。もし見つけたら、その温泉はすごい可能性を秘めているかもしれません・・!
また、井上は「高知県にもリサイクル工場はあるでしょうし、ゴミ焼却施設もあるでしょうから、それらの施設で実証実験を行うのはいかがでしょうか」と提案。これを受けて谷本氏は「それは可能です」と回答。「まずはどんな施設で、どんな廃棄物が出るのか教えてもらい、少しでも可能性が感じられたら、サンプルを送っていただく。それでわれわれが貴金属を回収することができるかを検証して、よい結果が出たら具体的に何ができるかを探っていくという流れになると思います」と続けました。
この後、地元企業との共同研究の可能性についてディスカッションした後、セッションの終了間際に会場からある情報がもたらされました。県東部、田野町にある「たのたの温泉」は硫酸性ではないかというのです。これに谷本氏と井上はすぐに反応。「では、谷本さん、今度ぜひ視察に出向きましょう」と井上が持ち掛けると、谷本氏も「ぜひ行きましょう」と返答。
高知県内で微生物を利用した資源循環プロジェクトが動き出す日は、意外に早くやってくるかもしれません。
文責:株式会社リバネス
キーノートセッション、パネルセッション、ショートピッチはアーカイブ動画を配信しています。配信希望も3月末まで受け付けておりますので、ぜひご覧ください。
こうちネクストコラボプロジェクトでは、高知県内事業者のグリーン化に関する新事業創出を支援しています。
9月以降は、高知県内の企業とスタートアップ企業や研究者との連携を具体化していくために視察や仮説の検証等に取り組んでいきます。また、スタートアップ企業や研究者との連携のご希望やご相談はこれ以降も随時受け付けています。
既に新事業に取り組んでいる方、これから取り組もうと考えている方など、新事業に興味をお持ちの方はいつでもご参加可能ですので、以下の「お問い合わせ」先までご連絡をお願いいたします。
<お問い合わせ>
主催:高知県 産業振興推進部 産学官民連携課(担当 山本、澁谷、川田)
(電話)088-823-9781
(メール)121701@ken.pref.kochi.lg.jp
運営:株式会社リバネス(担当 岸本)
(電話)03-5227-4198
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